はじめに:特別な道具はいりません
モラ制作のカラフルで複雑な作品を見ると、「何か特殊な専用の道具が必要なのかな?」と身構えてしまう方も多いかもしれません。私自身も、初めてモラを見たときは「一体どんなハサミを使えばこんなに細かく切れるのだろう」と不思議に思ったものです。
しかし、実際に始めてみると、モラ制作に必要な道具は驚くほどシンプル。極端に言えば、家にある裁縫箱の中身だけでもスタートできます。今回は、私が10年以上モラを縫い続けてきた中でたどり着いた「最低限必要な基本の道具」と、仕上がりを劇的に綺麗にする「こだわりのアイテム」をご紹介します。
モラ制作を支える4つの基本道具
1. 布:重ねる色を楽しむための主役
モラは「リバース・アップリケ(逆アップリケ)」という、重ねた布を切り抜いていく技法を使います。そのため、何よりも大切なのが布選びです。 初心者の方に一番おすすめなのは、プレーンな綿布(コットン、シーチング、ブロードなど)です。
モラは着ていた服の破れを補修したりするところから始まったそうです。そのため、切り抜いた布の端をほんの2〜2.5ミリほど内側に折り込みながら縫い進めます。厚すぎる布(デニムやキャンバス地)は指先が痛くなって折れませんし、逆に薄すぎる布(シルクやシフォン)は端がほつれてきてしまいます。まずは、適度に張りのある薄手の綿100%の布を数色揃えることから始めましょう。
2. ハサミ:作業の快適さを決める「命」
モラ制作において、ハサミの使いやすさは作品の仕上がりに直結します。 一般的な裁ちばさみではなく、必ず「先の尖った、小さな糸切りばさみや手芸用ハサミ」を用意してください。
モラでは、ミリ単位の切り込みを入れたり、急なカーブを切り抜いたりする作業が何度も出てきます。刃先がミリ単位でピタッと噛み合うハサミを使うだけで、布のほつれが減り、驚くほど思い通りのラインが切れるようになります。「これだけは、100円ショップのものではなく手芸店のプロ仕様のものを選ぶ価値がある」と言い切れる、一番投資すべき道具です。
3. 針:布をすいすい通る相棒
細かな「たてまつり縫い」を繰り返すモラでは、針の選び方も重要です。 私は「パッチワーク針」や細めの「刺繍針」を愛用しています。
何枚も布が重なっている場所を縫う際、太い針だと布を通すたびに指に強い力が必要になり、疲れてしまいます。しなるように細く、針穴に糸が通りやすいものを選ぶのが、長時間のんびりチクチク楽しむための秘訣です。
4. 糸・しつけ糸:美しさを裏から支える存在
糸は、原則として「一番上にきている布(切り抜いた布)」と同系色のミシン糸(キンカメ ビューティーミシン糸など)を使用します。針目が表に極力目立たないようにするためです。
また、モラは3枚、4枚と布を重ねるため、まち針ではどうしても縫っている最中に中の布がズレてしまいます。そのため、少し面倒でも必ず「しつけ糸」で放射状にしっかり仮縫いをしてから本縫いに入るのが、結果的に一番きれいで近道になります。
あると劇的に作業が捗る便利アイテム
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消えるチャコペン(水溶性) 複雑な図案を描くとき、あとで水やアイロンで消せるペンは必須です。私は、描きやすさと消えやすさのバランスが良い水性ペンタイプを重宝しています。
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アイロン(またはミニアイロン) 布を折り返した際、指先で折り目をなぞる(ツメアイロン)だけでも進められますが、要所要所でアイロンをあてて布を落ち着かせると、針の通りが良くなり、全体の歪みも防げます。
作家としてお伝えしたいこと:道具は育てていくもの
最初からすべてを最高級品で揃える必要はまったくありません。私も最初は、手元にあった余り布と、昔からある古いハサミでちいさな四角を切り抜くことから始めました。
「もっと細かい模様を縫ってみたい」 「もっと指が疲れない針が欲しい」
そう思ったときに、少しずつ道具をアップデートしていくプロセスもまた、手芸の大きな楽しみです。お気に入りの道具に囲まれて、一針ごとに模様が生まれてくる贅沢な時間を、ぜひ味わってみてください。
楽器の演奏家が1日練習をしないと感が鈍るとか、画家がデッサンを1日サボると絵が下手になるとか。手芸家も1日縫わないと、針目が揃わないなどあります。1日1針とか、針が錆びないうちに縫わないととか言われますが、モラは必ず針目が揃っていなくても気にならない、懐の深さがあります。隙間時間を見つけて自分のペースで始めましょう。

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