『タヌキのカナモノヤ』の背景に潜む、モラとアサフォフラッグの色彩と「重ねる」オマージュ

絵本

はじめに:絵本とモラ、二つの創作が交差する場所

私が上梓した絵本『タヌキのカナモノヤ』。一見すると、日本のどこか懐かしいカナモノヤを舞台にしたタヌキたちの物語ですが、実はこの絵本の色彩や世界観の根底には、私が10年以上愛してきたパナマの伝統手芸「モラ」へのオマージュが深く息づいています。

「なぜ日本のタヌキの物語に、中南米の手芸が?」と思われるかもしれません。しかし私にとって、絵を描くことと、布を重ねて針を動かすことは、驚くほど地続きの表現でした。今回は、絵本のプロットやイラストに隠された「モラ刺繍の仕掛け」について、作者ならではの裏話をお届けします。

1. パナマの太陽を意識した「色彩の対比」

『タヌキのカナモノヤ』を開いたとき、まず目に飛び込んでくるのは、どこかパッと目を引く独特のカラーブロッキングです。

日本の伝統的な絵本では、淡い水彩や落ち着いたアースカラーが好まれる傾向がありますが、私はあえて「鮮烈な原色の対比」をイラストのアクセントに取り入れました。タヌキの色に対して、背景には、ガーナ共和国ファンティ族旗で使われる鮮やかな赤、黄色を大胆に配色しています。

異なる強い色同士が隣り合うことで、画面全体に「振動するような生命力」が生まれる——これは、私がパナマのクナ族やガーナのファンティ族に学んだ、大切な表現の魔法です。

2. 「失敗さえも層(レイヤー)にする」という物語の精神

モラ刺繍の最大の技法的な特徴は、布を何枚も重ね、上の布を切り抜いて下の色を出していく「リバース・アップリケ」です。もし切りすぎて失敗しても、その下にまた別の色の布を重ねれば、それが作品の新しい「味」や「深み」に変わります。

この「失敗を排除するのではなく、積み重ねて人生の深みに変えていく」というモラの精神は、『タヌキのカナモノヤ』のストーリーそのもののテーマでもあります。

物語の中でタヌキの主人公は金儲けを考えます。このタヌキには鋳掛の技術があり、鍋や釜などの修理をして歩く行商でしたが、一念発起、ネクタイもして店を構えました。ところがお客さんは小さい動物ばかりで儲かりません。悩んだ末のアイデアは、周囲の人々の幸福という新しい「層(レイヤー)」を重ねていく。完璧ではないけれど、不揃いな線が重なることで温かみが増すモラのように、鍋は賑やかな銭湯となり、主人公の人生もまた、失敗を重ねることで豊かになっていく様子を描きました。

3. モチーフに込めた「ゆらぎ」の美学

モラを縫うとき、クナ族の女性たちは定規を使いません。彼女たちの手から生まれる動物や植物のラインには、機械には真似できない心地よい「ゆらぎ」があります。

『タヌキのカナモノヤ』のイラストを描く際も、私はこの「ゆらぎ」をとても大切にしました。きれいに整った直線ではなく、手仕事の温もりが残るような、少し歪んでいて愛らしい線。それは、私が日々モラを縫う中で指先が覚えた「型にはまらない自由さ」が、そのまま筆先に伝わった結果なのかもしれません。

結びに:形を変えて生き続ける情熱

私にとって、モラ刺繍をチクチクと縫う時間も、絵本のページをめくる時間も、誰かの心をほんのり温めるための「物語を紡ぐ作業」です。

パナマの女性たちが身体の模様を布に移して「モラ」を生み出したように、私もまた、モラから受け取った色のエネルギーを「絵本」という新しい形に移して表現しました。

もしすでに『タヌキのカナモノヤ』をお手元に持ってくださっている方がいれば、ぜひ次は「モラの色の重なり」を意識しながら、もう一度ページをめくってみてください。きっと、最初とは少し違った温かい景色が見えてくるはずです。

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